放射性元素の崩壊の速度論

放射性元素Aから元素Bへの崩壊(変換)反応は、一分子反応の反応速度論式で非常によく記述できることが知られている(核崩壊反応は一分子反応のお手本とも言われている)。
A → B (反応速度定数k(1/s))

この反応に伴って、粒子(光子や電子、原子、中性子)が放出される(放射粒子)。これら放出された粒子の流れは放射線と呼ばれる。放射粒子の種類やそのエネルギーは、元素ごとに決まっている(1回の崩壊で放出される放射粒子は1種類とは限らない)。逆に、放射粒子の種類やエネルギーを測定することで、放射性元素の種類が特定できる。

上の反応速度論式は、「時刻tにおける、反応速度v(t) (=dN(t)/dt)は下の微分方程式で表される」と読み替えてもよい。
v(t) = dN(t)/dt = k x N(t)
ここで、N(t)は元素Aの時刻tにおける個数。

これを解くと、
N(t) = N(0) x exp(-kt)
が得られる。

τ = 1/k
とすると、(τ: タウと読む。反応緩和時間。単位は秒(s))
Aの個数は、τ秒後に1/eになる。
Aの個数が半分になるまでの時間τ(1/2)(半減期)とτの関係は下の通り。
τ = τ(1/2) / ln2 ≒ 1.5 x τ(1/2) (小数点第2位を切り上げ)

1個の放射性元素の崩壊過程の確率密度分布(*)p(t)は以下の通り。(*確率密度分布p(t)を時間で定積分したものはイベントが起こる確率。)
p(t) = k x exp(-kt)

(0から)t秒までの間にイベントが起こる確率P(t)は、
P(t) = ∫(0, ∞) ( p(t)) dt = ∫(0,∞)( k x exp(-kt) ) dt = [- exp(-kt)](0, t) = 1 - exp (-kt)
ここで、t << 1/k = τの場合
exp (-kt) ≒ 1 - kt = 1 - τ/t
より
P(t) ≒ t/τ (t << τ のとき)

1個の放射性元素の平均寿命
= ∫(0, ∞) (t x p(t))dt = ∫(0,∞) (t x k x exp(-kt))dt = [-1/k x exp(-kt) - t x exp(-kt)](0, ∞) = 1/k = τ
つまり、反応緩和時間τは平均寿命と等しい。τを平均寿命と呼ぶこともある。

時刻t秒における放射粒子rの放射能R(t)を以下のように定義する。(R(t)の単位はベクレル (Bq (= 1/s))。
R(t) = N(t) x p(t)
N(t) = N(0) x k x exp(-kt)
より
R(t) = N(0) x k x exp(-kt) = k x N(t) (= v(t))

t秒から(t+Δt)秒までの間の、放射性元素Aに由来する放射粒子rの数C(t, Δt) を測定したとする。(崩壊反応で放射粒子rを必ず1個放出し、r粒子をすべて測定できているとする。)
C(t, Δt) = N(t) - N(t+Δt) = N(0) x exp(-kt) - N(0) x exp(-k(t+Δt))) = N(0) x (exp(-kt) - exp(-k(t+Δt))) = N(0) x (exp(-kt) - exp(-kt) x exp(-kΔt)) = N(0) x exp(-kt) x (1 - exp(-kΔt)) = N(t) x (1 - exp(-kΔt))
Δt << τの場合
exp(-kΔt) = ≒ 1 - kΔt
より
C(t, Δt) = N(t) x (1 - exp(-kΔt)) ≒ kΔt xN(t) = R(t) x Δt (Δt << τの場合)

以上より、Δt << τ 、つまり測定時間Δtが平均寿命τより十分に短い場合には以下のように、C(t, Δt) からR(t)を(かなりの精度で)算出できる。
R(t) ≒ C(t, Δt) /Δt

下に反応開始後の時刻t(τで規格化)における元素Aの崩壊確率(反応進行度)および残存確率を示す。

表 放射性元素(緩和時間τ)の崩壊率と残存率の時間依存性

t/τ 崩壊確率 残存確率
0 0% 100%
0.001 0.1% 99.9%
0.01 1% 99%
0.05 5% 95%
0.1 10% 90%
0.2 18% 82%
0.3 26% 74%
0.4 33% 67%
0.5 39% 61%
0.6 45% 55%
0.7 50% 50%
0.8 55% 45%
0.9 59% 41%
1 63% 37%
2 86% 14%
3 95% 5%
4 98% 2%
5 99.3% 0.7%
6 99.8% 0.2%
7 99.9% 0.09%


*7τ後には、最初の濃度の0.1%以下の濃度になる。
**t < 0.1τでは、τ/t 〜崩壊確率。