核燃料に含まれる主要な放射性元素の性質

ヨウ素131 (I-131)

半減期 8.02日
消化管吸収率 100%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

I-131の半減期は8日なので、1ヶ月で約1/10、3ヶ月すれば1/1000の以下の量になる(環境中に放出されたものだけでなく、原子力発電所の燃料中のものも1/1000になる)。事故発生から数ヶ月間の期間限定で注意すればいい放射性元素である。
ヨウ素131の経口摂取量、大人(中学生以上)は、1,000,000 Bq/年 程度までであれば、大きな問題はないと思われる。小児(小学生以下)に関しては、はっきりは言えないが、10,000 Bq/年 程度までの経口摂取であればあまり大きな問題はないと思われる。

詳細

I-131は医薬品として用いられている(大人のみ)。甲状腺の検査、治療用。

検査用 0.185〜1.85 MBq
治療用 1.11〜7.4 GBq (30〜70 Gy)

http://fri.fujifilm.co.jp/med/products/diagnosis/thyroid/radiocap/index.html
http://fri.fujifilm.co.jp/med/products/therapeutic/ri/cap1/index.html

治療用は、がん、バセドー病などの難病に使れるもので、服用したときの後遺症が少なからずあるものと考えられる。
一方、検査用は治療用の1/100程度の摂取量で、あくまで検査のためのものなので、それによる後遺症は非常に小さいものと思われる。
つまり、1 MBq (1,000,000 Bq)程度のI-131の経口摂取であれば、大人に対する影響はほぼ無視できるものと考えられる。
小児(小学生以下)に関しては、下のような記述になっている。
「小児等に対する安全性は確立していない(現在までのところ、十分な臨床試験成績が得られていない)。尚、被曝による不利益が診断上の有益性を上回ると考えられるので、小児等には投与しないことが望ましい。」
これの意味するところは、十分な臨床試験が行われていないため判断ができないということ。小児の経口摂取による内部被曝は、個人的な感覚としては、大人の1/100程度の10,000 Bqであればあまり大きな問題はないものと思われる。小児の体重が大人の1/10以上であるとし(生まれたばかりの赤ちゃんは除く)、大人-子供の安全係数を1/10に設定した。あくまで、おおざっぱな見積。

110319(土)発令の水質基準は大人300 Bq/kg、乳児は100 Bq/kg。これを、1日2Lずつ(子供と乳児は1Lずつ)飲むと、大人219,000 Bq/年、子供109,500 Bq/年、乳児は36,500 Bq/年になってしまうが、上で述べたように、3ヶ月すると環境中のI-131量は1/1000近くまで低下する事が期待される。つまり、最初の数ヶ月分の摂取だけ考えればいい。このため、110319(土)発令の水質基準を守っても、原発がこのまま推移さえしてくれれば、乳児や子供もトータルではで上で考察した分量の10,000 Bq/年以下しか摂取しないものと思われる。



セシウム137、134 (Cs-137、Cs-134)

半減期 30.1年(Cs-137)、2.1年(Cs-134)
生物学的半減期 110日
消化管吸収率 100%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-04-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

セシウム137および134の大人の経口摂取量、合計で10,000 Bq/年程度までなら大きな問題にはならないと考えられる。
WHOの水道水ガイダンスレベルは7300 Bq/年。WHOの基準値は相当安全に設定されていると思われる。
110319(土)発令の水質基準値は150,000 Bq/年程度を上限にしている。長期間にわたらなければ問題ないと思われるが・・はっきりはわからない。

詳細

アルカリ金属(リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs))は、通常環境では、1価のプラスイオンとして存在する。

Kの同位体のうち、主要な二つのK-39, K-41は安定だが、K-40(0.012%)は放射性である(半減期1.250×10^9年)。
K-40はβ崩壊により安定なCa-40に変化する。
Kは大人の体に約200 g含まれている。200 gのKは約6500 Bqの放射能を持つ(主に〜1 MeVのβ線を放出)。

Cs-137、Cs-134もK-40と同様、崩壊時にγ線β線を放出する。

ナトリウムイオン(Na+)とカリウムイオン(K+)は、細胞内外でまったく違った濃度になっている。これは、細胞膜上のナトリウムポンプの働きにより、Na+が細胞から運び出され、K+が細胞内に運び入れられているからである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Na%2B/K%2B-ATP%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC
セシウムイオン(Cs+)はK+よりも大きなイオン半径を持ち、生体内では小さなイオン半径を持つNa+ではなく、K+に似た分布をを示す。
http://en.wikipedia.org/wiki/Caesium
よって、K-40とCs-137の持つ放射能の人体に対する作用は、かなり近いと考えられる。
大人の体内のK-40の放射能が6500 Bqであること、および、セシウムの消化管吸収率が100%であることを考えると、同程度の放射能をもつCs-137およびCs-134を経口摂取することは大きな問題ではないと考えられる。
WHOのガイダンスレベルは7300 Bq/年ともほぼ一致。
よって、大人であれば、1年あたり合計で10,000 Bq程度のCs-137およびCs-134を経口摂取することは健康にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。

110319(土)発令の水質基準値によると、放射性セシウム(飲料水)200 Bq/kgとなっている。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015k18.pdf
1日2kgの水を飲むとすると、1年で146,000 Bq。
実効線量〜5 mSv/年。
生物学的半減期が110日とそれほど長くないので、あまり神経質になる必要はないとは思うが・・・。



ストロンチウム90 (Sr-90)

半減期 30.1年
生物学的半減期
消化管吸収率 30%(大人)、60%(乳児)

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-04-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

WHOの水道水のガイダンスレベルは7300 Bq/年。半減期が長く、蓄積性が高いため、水道水に関しては、ガイダンスレベルを守ることが望ましいと思う。

詳細

ストロンチウム(Sr)はアルカリ土類金属で、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)の仲間。通常環境では、2価のプラスイオンとして存在する。
Sr-90は110331(木)現在までのところ測定が行われていない。これは、Sr-90が崩壊の際に弱いβ線のみを放出するため、検出が難しいことによる。ただし、東京のチリ中に存在することは、東大の早野氏によって示されている。
http://plixi.com/p/86903798

WHOのガイダンスレベル(通常時の基準)は7300 Bq/年。つまり、Cs-137と同じ。
現在は、基準値は設定されていないが、今後検出れた場合、原子力安全委員会が水質基準値を設けると思われる。
Sr-90はCaに似ているため、骨に畜積されやすいとされている。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-03-03-04

半減期はCs-137とほぼ同じ。蓄積性が高い分、高濃度の濃度のSr-90が検出された場合は、強い注意を払う必要がある。



プルトニウム

核種 半減期 廃燃料中の割合
Pu-238 87.7年 2%
Pu-239 24110年 59%
Pu-240 6563年 24%
Pu-241 14.35年 11% β崩壊によりAm-241に
Pu-242 373300年 4%
Am-241 433年   Pu-241のβ崩壊により生成
生物学的半減期 100年程度
消化管吸収率 0.001%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09040410/03.gif
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-04-04-10

まとめ

廃燃料ペレット中での存在形態である二酸化物(PuO2)の比重は11.5 (g/cm^3)と非常に大きく、融点も2,400℃と高い。よって、原発の極近傍以外には拡散しない可能性が高いと思われる。実際、原発敷地内の土壌から検出された放射能濃度も、通常の土壌の放射能濃度と大差なかった。
プルトニウムは経口摂取に関しては、消化管吸収率が非常に低く、水への溶解度も非常に低いのでほとんど気にする必要がない。吸入摂取の毒性は高いが、上で述べたようにほとんど拡散しないと思われるので、避難区域外においては、やはり気にする必要はないだろう。

詳細

プルトニウム同位体はPu-241を除き、すべて約5 MeVのα粒子を放出して崩壊する。Pu-241はβ崩壊でAm-241になり、Am-241はエネルギー約5 MeVのα崩壊をする。結局すべてのプルトニウム同位体が5 MeVのα粒子を放出する。
廃燃料ペレット中での存在形態である二酸化物(PuO2)の比重は11.5 (g/cm^3)と非常に大きく(鉄の約1.5倍)、その融点も2,400℃と高い。また、水への溶解度も非常に低い。よって、激しい爆発事故などが起こらない限りは、非常に飛散しにくいものと思われる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Plutonium%28IV%29_oxide

プルトニウムの経口摂取における吸収率は0.001%と非常に低いため、経口摂取に関してはあまり大きな問題にはならない。一方で、吸入摂取時に関しては他の元素と同程度の摂取率かつ高い毒性を持つので、微粒子が大量に拡散するような環境では、吸い込まないよう厳重な注意を要する(しかし、上で述べたように、微粒子はあまり拡散しないだろう)。
プルトニウム半減期および生物学的半減期が長く、高エネルギーのα崩壊をするため、吸入時の預託実効線量換算係数(Sv/Bq)は他の核種の1000〜10000倍である(経口摂取時は吸収率が低いので〜10倍)。ただし、預託実効線量はあくまで預託期間の50年(子供は70年)の積算値である。I-131やCs-137に比べて、預託期間中の分子数の減少が少ないため、全預託期間への線量の平準化率が大きくなる。つまり、同じ放射能あたりで見たとき、プロトニウムは預託実効線量は大きいが、1年あたりの実効線量では、他の核種との差が、数分の1から数十分の1だけ縮まってしまう。
さらに、半減期が長いことから、単位個数(例えばモル)あたりの放射能は小さい。半減期が30年のCs-137やSr-90に比べても単位個数あたりの放射能は〜1/60(Puの同位対比は上の表の廃燃料棒中の比とする)。原子番号も非常に大きいため、単位重さあたりの放射能はさらに小さくなる(Cs-137やSr90に対して〜1/100)。つまり、プルトニウムは、単位放射能あたりでの毒性は高いが、単位個数や単位重さあたりの毒性はさほど高くない放射性元素である。
110329(火)に福島第一原発の敷地内の土壌(110321(月)、110322(火)にサンプリング)からごくわずなPuのα線放射能が検出された。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032806-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110328m.pdf


土壌1kgあたりのPuのα線放射能 -福島第一原発の敷地内の土壌(110321(月)、110322(火)にサンプリング)

核種 Bq/kg
Pu-238 0.1-0.5
Pu-239,240 0.2-1.2

この値は、全国の大地のプルトニウム濃度(大気中核実験で降り積もった分)と大きくは違わない(*)。つまり、ごくごく微少量放出されたということ。東京はもとより、福島でも数 km以上離れた地域であれば、経口摂取、吸入摂取どちらにおいてもプルトニウムが問題になることはないと思われる。

(*)Pu-238の他の核種に対する割合が高いことから、原発実験ではなく、核燃料由来である可能性が高いと判定された。


プルトニウムに関する高校生向けの情報(内容は非常に充実)
http://www.atomin.go.jp/atomin/high_sch/reference/atomic/plutonium_science/index.html
大気中核実験の時代(1970年ころまで)はPuの降下量が現在の1000-10000倍
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/ge/2007Artifi_Radio_report/Chapter5.htm
http://plixi.com/p/87687218
http://plixi.com/p/87687577


(補足)
次の36ページに、経口摂取の際の様々な核種の実効線量への換算係数が載っている。とくに、乳児、幼児、少年、青年、成人ごとの係数が載っているのが特徴。(Cs-137の成人の値は10倍違っているので注意。)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf