内部被曝の物理的基礎

放射性線が人体に及ぼす影響

放射性元素が体内に取り込まれると、そこから放出される放射粒子によって、主にDNAが損傷を受ける。この損傷により、ガンなどの疾病が引き起こされる。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-02-06

放射粒子が人体に及ぼす影響の大きさは、粒子の種類やエネルギーによって異なる。
核分裂反応時に放出される放射線は、α、β、γ線X線)、中性子線の4種類。

放射線 放射粒子
α線 He(ヘリウム)原子核
β線 電子
γ線X線 光子
中性子 中性子

γ線X線)、中性子線は物質との相互作用が弱いため、人体を透過してしまいやすい。X線でレントゲン写真が撮れるのは、多くの光子が透過するため。α線β線は物質との相互作用が強いため、ほとんどが人体に吸収される。このため、外部被曝ではγ線X線)、中性子線が主要な問題になるのに対し、内部被曝ではα線β線が主要な問題になる。なぜなら、α線β線は空気中を遠くまで飛べず、服などでもかなり遮蔽されるので外部被曝を起こしにくいが、逆に内部被曝を考えた場合、体内で発生したγ線X線)、中性子線の多くが体外へ抜けてしまうのに対し、α線β線はほとんどが体内で吸収されるためである。


放射性元素を取り込んだときの吸収エネルギー

時刻0に放射粒子r(エネルギーer)を放出する放射能R(Bq)の放射性元素A(反応緩和時間τ)を体内に取り込んだとする。
このとき、時刻T(s)までに人体に吸収されるエネルギーE(T)、および吸収されうる最大エネルギーEmax(T)は
E(T) ≦Emax(T) = (1- exp(-T/τ)) x τ x R x er

(*)E(T) = Emax(T)になるのは完全吸収の場合で、α線β線による内部被曝は完全吸収に近いと思われる

T >> τ(例えばT > 7τ)の時
Emax(T) ≒ τ x R x er

t << τ (例えばt < 0.1τ)の時は以下がかなりよい近似。
1- exp(-t/τ)≒ t/τ

よって、T << τの時は以下の近似がよく成り立つ。
Emax(T) ≒ T/τ x τ x R x er = T x R x er

右辺にτが入っていないことに注意。つまり、τより十分短い積分期間Tであれば(T << τ)、放射能Rと放射粒子のエネルギーer、および積分時間Tだけで、その間に人体に吸収される最大エネルギーEmax(T)が(かなりの精度で)求められる。

原子力発電所で生成される放射性元素から放出される放射粒子は、1 MeV(= 1.6 x 10^-13 J)程度のエネルギーを持つことが多い。
以下に、放射性元素の取り込みにより、人体が吸収する最大エネルギーの計算例を載せる。ちなみに、1年 ≒ 3.2 x 10^7 s。


(例1)
I-131を想定
er = 0.4 MeV, 半減期 = 8日, R = 10000の放射性元素を体内に取り込んだときのEmax(1年)、Emax(50年)は

Emax(1年) = 0.64 mJ
Emax(50年) = 0.64 mJ

Emax(50年)/Emax(1年) = 1.00


(例2)
Cs-137を想定
er = 0.5 MeV, 半減期 = 100日, R = 10000の放射性元素を体内に取り込んだときのEmax(1年)、Emax(50年)は

Emax(1年) = 9.71 mJ
Emax(50年) = 9.97 mJ

Emax(50年)/Emax(1年) = 1.03


(例3)
Pu-238、239、240、241、242の混合物を想定
er = 5 MeV, 半減期 = 100年, R = 10000の放射性元素を体内に取り込んだときの、Emax(1年)、Emax(50年)は

Emax(1年) = 362 mJ
Emax(50年) = 14321 mJ

Emax(50年)/Emax(1年) = 39.5


吸収線量(Gy = J/kg)と吸収エネルギーの関係

吸収線量Dは、試料(人体など)1kgあたりに吸収された放射線のエネルギー。
たとえば、外部被曝の場合、体重m kgの人がエネルギーEの放射線を吸収した場合、吸収線量Dは、
D = E/m
で表される。(実際は、臓器ごとの係数があって、話しはもっと複雑。)
http://www.remnet.jp/lecture/seminar/H21kisoII04.pdf のp15

さらに、放射線荷重係数wによって、放射線ごとの人体への影響の強さを補正した、等価線量H(Sv = J/kg)というパラメータも存在する。
H = w x D

放射線 放射線荷重係数w
α線 20
β線 1
γ線 1
中性子 10

内部被曝の場合、多くの放射性元素は特定の臓器に集まりやすい傾向を持つ。このため、mは放射性元素の存在する臓器の重さとなる。
実際はの内部被曝の見積は、いちいち上の式から実効線量を計算するのではなく、下に述べる線量換算係数を用いて行われる。



実効線量係数

実際の内部被曝の評価には、実効線量係数F(Sv/Bq)をもちいて、摂取の放射能R(Bq)から預託実効線量Hc(Sv)に換算する。
Hc = F x R
「預託」とついているのは、内部被曝の場合、放射性元素が長期間にわたって体内にとどまることから、とどまり続けたトータルの線量を求める必要があるため。未来に受ける線量も含めて計算する。積算期間は摂取時からで50年(子供は70年)。実効線量係数は、経口、吸入や、放射性物質の化学的状態、大人、子供、など様々なパラメータによって異なる。

緊急被ばく医療ポケットブックの≪内部被ばくに関する線量換算係数≫に主な放射性元素の実効線量係数F(Sv/Bq)の表が載っている。
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html
I-131, Cs-137, Sr-90は10^-7〜10^-8(Sv/Bq)程度。ただし、Pu, Amの吸入時の線量係数は10^-4(Sv/Bq)と特別高い。
預託実効線量の積算期間は50年だが、I-131は3ヶ月(〜7τ)で99.9%以上の崩壊が起こる。つまり、最初の3ヶ月もするとほぼ積算期間が終了と見なせる。
また、Cs-137のように、生物学的半減期が100日程度と半減期の30年に比べて短いものに関しては、数年もすると積算期間が終了と見なせる。


(補足)
そもそも、内部被曝の場合は、α、β線という相互作用が強い放射線によるものが問題になる。このときは、放射性物質が付着した付近が集中的に被曝するため、均一な放射線による外部被曝と異なった被曝の仕方になる。よって、既に述べたように、同じ実効線量の値でも、外部被曝内部被曝の効果が等しいとは限らない。内部被曝をあえて実効線量に換算するのは、被曝量を公的に管理するには、外部、内部で統一した基準がないと不便だからであろう。

放射能に関するまとめメモ(目次)

110311(金)の福島第一原子力発電所の事故発生後、最初の約1週間は、状況がめまぐるしいスピードで悪化していきました。毎日毎日、今原発で何が起こっているのか、ということ把握することで精一杯でした。そのため、放射性物質放射線が人体に及ぼす影響について勉強する時間がほとんどとれず、今考えると明らかに過剰といえる放射能対策を友人達に対して発信してしまいました。そして、この情報の一部は見しらぬ方々にまで伝わってしまいました。
110316(水)に、友人の指摘によって自分の対応策のおかしさに気付き、それまで送った情報をすべて取り消しました。原発に関する情報の発信もやめました。

その後今日まで、放射能がもたらす健康被害について自分なりに調べてきました。いろいろ調べた今の感想は、自分は放射能に対して必要以上に強い恐怖心を持っていた、というものです。小さい頃、祖父母の家で読んだ「はだしのゲン」という広島の原爆で被爆した少年を描いた漫画のぼんやりとした記憶も影響している気がします。

以下の内容は、自分が放射能の勉強をするにあたって作ったメモを少しまとめ直したものです。放射線放射性物質は自分にとって専門外のことなので、多少怪しい内容も含まれているものと思われます。それでもあえてこのメモを公表しようと思ったのは、2週間前の僕の偏った放射能に対する考え方に基づいて書かれた文章を読んで不安を感じた方々(の少なくとも一部)に、現在の僕の放射能に対する考え方をきちんと提示できれば、と思ったからです。

読みにくい文章ですが、放射能に対する不安を和らげることに多少なりとも役だってくれれば幸いです。

内部被曝

被曝

人体が放射線にされされることを被曝という。被曝には、人体表面からの放射線による外部被曝と、人体内の放射線源からの放射線による内部被曝の2種類がある。外部被曝では人体に対する透過性の高い放射線であるγ線X線中性子線が主な原因になるのに対し、内部被曝では透過性が低いα線β線が主な原因になる。110331(木)現在、避難区域以外(30 km圏外)のほとんどの場所では、内部被爆が主要な問題となっている。
人は環境から常にある程度の被曝を受けている。宇宙線や自然界に存在する放射性物質による放射線からは外部被曝を受け、体内に存在する放射性元素の出す放射線からは内部被曝を受けている。また、被曝により体が損害を受けた場合でも(DNAに受ける損害が主な問題になる)、人体にはそれを一定程度回復する仕組みが備わっている。
このため、一定量以下の被曝であれば、実質的な健康被害はないといえる。被曝をいたずらに怖がるのではなく適切に怖がることが合理的なふるまいであろう。そのためには、被曝量と健康被害の関係ををきちんと把握しておくことが重要である。


内部被曝

内部被曝量は経口(食べること)、または吸入(吸い込むこと)によって、放射性物質を体内に取り込むことで増加する。

被曝の程度は実効線量(単位はシーベルト(Sv))で評価されることが多い。外部被曝の評価には空間の実行放射線量率(uSv/hなど)を知る必要があるのに対し、内部被曝の評価には摂取した放射性元素の量を知る必要がある。摂取した放射性元素の量を知るには、摂取したものに含まれる放射性元素の濃度の情報が必要になる。一般に、放射性元素の濃度はそれぞれの元素の持つ放射能濃度で測られる。単位は、大気の場合はBq/m^3、食品の場合はBq/kg、Bq/Lなどである。公的機関や東京電力により、放射性元素ごとの放射能濃度情報が公開されている。
内部被曝の評価は一般的に預託実効線量を用いて行われる。預託実効線量は、摂取放射能(Bq)に線量換算係数(Sv/Bq)をかけることで算出できる。

摂取時の放射能-線量換算係数-大人(妊婦および妊娠の可能性がある女性は除く)
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html
吸入摂取

核種 吸入摂取 線量換算係数 (Sv/Bq)
I-131 7.4E-9
Cs-134 2.0E-8
Cs-137 3.9E-8
Sr-90 1.6E-7
Pu ~1E-4
Am-241 9.6E-5

経口摂取

核種 経口摂取 線量換算係数 (Sv/Bq)
I-131 2.2E-8
Cs-134 1.9E-8
Cs-137 1.3E-8
Sr-90 2.8E-8
Pu 2~3E-7
Am-241 2.0E-7

(*)E-xは10^-xを表す。


上の換算係数を用いれば、放射能濃度から預託実効線量を求めることができる。しかし、預託実効線量から内部被曝の評価を行うことは必ずしも簡単ではない。一般的に用いられる実効線量の評価表(例えばWikipediaの表 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88)は、あくまで均一な放射線による外部被曝においてのみ有効なものであり、内部被曝や局所的な外部被曝に対しては参考程度にしか使えない。
下の"緊急被ばく医療における被ばく線量評価 ―内部被ばくを中心として― "のp13に
http://www.remnet.jp/lecture/seminar/H21kisoII01.pdf
「実効線量はあくまで発がんなどの確率的影響について評価するためのものであること、すなわち、治療等の医療目的や事故時の大量被ばくにより生じる確定的影響を考える必要のある場合には使用すべきでないことを理解・留意する必要がある。」
との記述がある。


以下に、内部被曝や局所的な外部被曝による健康被害が、被曝の確定的影響に対しては、評価表から大きく外れる例を示す。


このように、確定的な内部被曝の程度の評価には実効線量(Sv)はあまり有効でははない。

放射線安全フォーラムの理事長、加藤和明氏は、内部被曝の場合、外部被曝と同じ「線量」という一つの評価軸に無理矢理のせるために、かなり複雑で無理のある計算が行われていると述べている。そして、内部被曝外部被曝に比べて不確定要素が多いため、より大きな"安全係数"が乗じられることが多い、と述べている。
http://www.rsf.or.jp/column/column100429.html
http://www.rsf.or.jp/column/column100401.html


外部被曝においても、その基準値には安全面で相当程度ゆとりが存在したようだ。以下は、我が国の一般公衆向けの被曝量の基準値は、今回の原発事故の前までは、かなり安全サイドによった設定になっていたと主張する論文である。
http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/news_event/2011/parity2000/jaworowski2000-09.pdf
http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/news_event/2011/parity2000/kato2000-09.pdf
http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/040246.html


原発事故が起こってしまって以来、これまで基準を超えるケースが多くみられるようになった。国は事故後速やかに、基準値の引き上げを行った。その上で「新しい基準値は依然安全にゆとりがあり、現在の放射線量や放射性物質濃度はそれを下回っているので安全である」、というようなアナウンスをしている。しかし、唐突に基準値が上がったため、この新しい基準値に対する不信感、不安感を覚える方も多いと思われる。
これに対する国の説明は、「事故前の基準は安全サイドに相当大きくよっていた基準であったので、それを緩和した新しい基準でもまだ安全である」、というものである。実際、上にあげた資料を見る限りにおいては、その主張は正しいように見える。しかし、できるならば、「原発事故前から使われていた○○という基準値を現在の放射能の値が下回っている」、というような形の方が、より広く受け入れられやすいように思える。
そこで、吸入摂取、経口摂取それぞれに対して、事故前から定められており、かつリスクの検討が十分なされていると思われる基準値を調べてみた。




吸入摂取による内部被曝

吸入摂取に関しては、「放射線業務従事者に対する空気中濃度限度」が参考になる。
これは、放射線管理区域で作業する放射線業務従事者に適用されるものであるが、大人(妊婦や妊娠の可能性がある女性は除く)にとっては、年間を通して働いても健康被害がほとんど出ないような濃度であると思われる。
表1 放射性核種の空気中限界濃度及び排気中限界濃度 

核種 濃度(Bq/m^3) 化学形等
Sr-90 7,000 チタン酸
I-131 1,000 蒸気
Cs-137 3,000 すべての化合物
Pu-239 3 不溶性の酸化物

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09040215/01.gif
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-02-15


上の表1は、放射線管理区域に週40時間いることを前提にした数値である(1日6時間弱)。吸入による被曝の見積として、1日のうち半日を屋外で過ごし、半日を屋内ですごす、屋内の放射性元素濃度は屋外の半分という条件を仮定する。このときの屋外環境の放射性核種の限界濃度は、上の表の約1/3の濃度とわかる。現在のような緊急事態においては、多くの大人(妊婦や妊娠の可能性がある女性は除く)にとって、この1/3という濃度は限度濃度として使用できるだろう。
Pu-239に関しては、他のPu同位体も原子炉で生成されている。これらのPu同位体も、Pu-239と同様に約5 MeVのエネルギーのα粒子を放出して崩壊する。例外は、β崩壊によりAm-240に変換するPu-240だが、生成したAm-240は5 MeVのα崩壊をする。これは、すべてのPu同位体の人体に対する影響は、単位放射能あたりでは同程度であることを意味する。よって、Puに関しては、全Pu同位体の(可能であればAmも含めて)積算放射能濃度が1 Bq/m^3以下になっていればよいことになる。

まとめると、大人(妊婦や妊娠の可能性がある女性は除く)にとって、上の表1の濃度の1/3程度までの放射性元素濃度を与える屋外環境は、健康被害がほとんど生じないものと考えられる。
妊婦や妊娠の可能性がある女性はこの値の1/5、つまり表1の値の1/15を選ぶ必要がある。(一般の放射線業務従事者の限度濃度は5 mSvだが、妊婦および妊娠の可能性がある女性は1 mSvと1/5になっている。)
http://www.rokuen.or.jp/wwwpages/iinkai/senkanri/kanren.pdf
子供は、妊婦と同じか、さらに半分程度(つまり表の1/10)を用いた方がいいかもしれない。


以下は、各地の大気中の放射性元素濃度の分析結果である。
東京
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/whats-new/measurement.html
茨城(つくば) (1 Bq/cm^3 = 10^6 Bq/m^3)
http://www.kek.jp/quake/radmonitor/index.html
福島
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304006.htm
福島第一、第二原発敷地内
http://www.tepco.co.jp/cc/press/index-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11033006-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032904-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032803-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032703-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032603-j.html


原発敷地内以外では、110330(水)までのところ、IおよびCsに関して、表1の濃度の1/3を超えたのは福島第一原発から20-30 km地点の110320(日)、110322(火)、110323(水)のみであり、後半は濃度が減少傾向である。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/22/1304007_2215.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/23/1304007_2310.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/24/1304007_2410.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/30/1304007_3010.pdf



原発敷地内においても、ここ4日は表1の濃度を下回り始めている。
よって、現在の状態が続くならば、福島第一原発から30 km以上離れた場所(飯舘村など一部を除く)では、吸入による内部被曝を気にする必要はないと思われる。
ただし、今後の原発の状態次第では、濃度が急変する可能性もあるので、福島県在住の場合、とくに、子供や妊婦、妊娠の可能性がある女性は、発表される放射能濃度に気を配り続けるべきであろう。


(補足)
110331(木)現在、情報として最も入手しやすいのは空間線量率(Gy/hやS/h)である。しかし、空間線量率と放射性物質の大気中濃度はあまり相関がないことが多い。以下に例を示す。

文部科学省による"ダストサンプリング、環境試料及び土壌モニタリングの測定結果"の福島第一原発から約30 km西北西の【1-3】地点のデータ
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304006.htm

採取日 開始時間 終了時間 I-131(Bq/m^3) Cs-137(Bq/m^3) 空間線量率(uGy/h) I+Cs(Bq/m^3) I/Cs
2011/3/20 14:13:00 14:33:00 3800 860 13.7 4660 4
2011/3/22 13:43:00 14:11:00 7 1.1 12.2 8.1 6
2011/3/23 13:54:00 14:17:00 8 1.4 9.4 9.4 6

20日-23日で、空間線量率(uGy/h)は2/3程度しか減少していないにかかわらず、I-131やCs-137の大気中放射能濃度(Bq/m^3)は約1/500に減少している。空間線量率から大気中放射能濃度をきちんと見積もることは難しいといえる。



経口摂取による内部被曝

経口摂取による内部被曝は、飲食物を摂取することにより引き起こされる。110331(木)現在、食品の放射能は政府、自治体によって厳しくチェックされているため、市場に出回っている食品には大きな問題はないと思われる。一方、水道水は、厚生労働省の新基準値越えが何度か起こっている。よって、水道水に焦点を当てて議論する。

水道水に関しての暫定基準値に関してはチーム中川のブログによいまとめがある。
http://tnakagawa.exblog.jp/15130051/

また、WHOからも暫定基準値に対する声明が出ている。
http://www.who.or.jp/index_files/FAQ_Drinking_tapwater_JP.pdf



通常時のWHOの基準値に関して。
WHO飲料水水質ガイドライン-第3版-(2004)水質基準(ガイダンスレベル)は下のp. 203。
http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf
この基準は、大人、子供に関係なく適用される。大人の摂取量は730 L/年としている(つまり、2 L/day)。

この水質基準は、平常時に使われる基準で統計学的推定生涯リスク(増加分)10^-5とかなり安全目なもの。これを満たしていれば、十分に安全である思われる。

核種 Bq/kg
I-131 10
Cs-134 10
Cs-137 10
Sr-90 10
Pu 1


IAEAによる原子力事故時の水質基準(オペレーショナルレベル)は下のp. 13。
http://www.wpro.who.int/NR/rdonlyres/55CDFAF4-220A-4709-A886-DF2B1826D343/0/JapanEarthquakeSituationReportNo1322March2011.pdf

核種 Bq/kg
I-131 3,000
Cs-134 1,000
Cs-137 2,000


110319(土)発令の原子力安全委員会が定めた飲食物制限に関する指標値 (飲料水)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015k18.pdf

放射性元素 Bq/kg 乳児(Bq/kg)
I 300 100
Cs 200 200


IAEA原子力事故時の基準や110319(土)の水質基準値は、高濃度汚染が長期間にわたり続いた時にも使い続けられるようなものなのかということは、はっきりはわからない。

ただし、I-131に関しては、このまま再臨界さえなければ、3ヶ月で1/1000以下になる。そのため、WHOのガイドライン基準ではなくて、110319(土)の水質基準値に従って問題はないだろう。
Cs-137やSr-90 は、半減期が長い(体内半減期が短くても、土壌にとどまる時間が長い)のでWHO飲料水水質ガイドライン基準を尊重した方がいいように思える。


水道水の測定結果のリンク先

全国の水道の放射能濃度のグラフ
http://atmc.jp/water/
東京都浄水場放射能濃度の速報
http://www.metro.tokyo.jp/SUB/EQ2011/water.htm
東京都浄水場放射能濃度のグラフ
http://atmc.jp/water_tokyo/
東京都健康安全研究センター(東京都新宿区百人町)の水道の放射能濃度
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/w-past_data.html
福島県の水道の放射能濃度
http://www.pref.fukushima.jp/j/index.htm
福島県伊達市の水道の放射能濃度
http://www.city.date.fukushima.jp/groups/kankyo/folder.2011-03-24.1747509560/mizu.html


東京都の金町浄水場で水のI-131の放射能濃度が、3月22日に210 Bq/kgと、110319(土)の水質基準値の乳幼児向けの基準(100 Bq/kg)を一時的に超えた。しかし、110331(木)現在は検出限界以下(20 Bq/kg以下)に低下。

Cs-137に関しては、ほとんどの場所で、検出値がずっとWHOの基準を下回ったまま。福島市では公開を始めた110318(金)以降、ずっと検出限界未満。東京都新宿区百人町の水道水で最も高濃度だったのが110324(木)の1.43Bq/kg。つまり、Cs-137の水道水汚染はまったく気にしなくてよいレベル。

新宿区百人町の東京都健康安全研究センターの検出値も相当下がってきている。
110330(水)時点で、I-131: 5.09 Bq/kg、Cs-134: : 0.25 Bq/kg、Cs-137: 0.63 Bq/kg。

110331(木)時点で、福島県の一部(飯舘村など)を除いて、水道水はI-131に関しては、110319(土)発令の原子力安全委員会の水質基準値を満たしており、Cs-137に関してはWHO飲料水水質ガイドライン基準を満たしている。よって、福島県の一部(飯舘村など)を除いては、現在のところ、水道水は乳幼児に対しても安全な状態であるといえるだろう。

核燃料に含まれる主要な放射性元素の性質

ヨウ素131 (I-131)

半減期 8.02日
消化管吸収率 100%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

I-131の半減期は8日なので、1ヶ月で約1/10、3ヶ月すれば1/1000の以下の量になる(環境中に放出されたものだけでなく、原子力発電所の燃料中のものも1/1000になる)。事故発生から数ヶ月間の期間限定で注意すればいい放射性元素である。
ヨウ素131の経口摂取量、大人(中学生以上)は、1,000,000 Bq/年 程度までであれば、大きな問題はないと思われる。小児(小学生以下)に関しては、はっきりは言えないが、10,000 Bq/年 程度までの経口摂取であればあまり大きな問題はないと思われる。

詳細

I-131は医薬品として用いられている(大人のみ)。甲状腺の検査、治療用。

検査用 0.185〜1.85 MBq
治療用 1.11〜7.4 GBq (30〜70 Gy)

http://fri.fujifilm.co.jp/med/products/diagnosis/thyroid/radiocap/index.html
http://fri.fujifilm.co.jp/med/products/therapeutic/ri/cap1/index.html

治療用は、がん、バセドー病などの難病に使れるもので、服用したときの後遺症が少なからずあるものと考えられる。
一方、検査用は治療用の1/100程度の摂取量で、あくまで検査のためのものなので、それによる後遺症は非常に小さいものと思われる。
つまり、1 MBq (1,000,000 Bq)程度のI-131の経口摂取であれば、大人に対する影響はほぼ無視できるものと考えられる。
小児(小学生以下)に関しては、下のような記述になっている。
「小児等に対する安全性は確立していない(現在までのところ、十分な臨床試験成績が得られていない)。尚、被曝による不利益が診断上の有益性を上回ると考えられるので、小児等には投与しないことが望ましい。」
これの意味するところは、十分な臨床試験が行われていないため判断ができないということ。小児の経口摂取による内部被曝は、個人的な感覚としては、大人の1/100程度の10,000 Bqであればあまり大きな問題はないものと思われる。小児の体重が大人の1/10以上であるとし(生まれたばかりの赤ちゃんは除く)、大人-子供の安全係数を1/10に設定した。あくまで、おおざっぱな見積。

110319(土)発令の水質基準は大人300 Bq/kg、乳児は100 Bq/kg。これを、1日2Lずつ(子供と乳児は1Lずつ)飲むと、大人219,000 Bq/年、子供109,500 Bq/年、乳児は36,500 Bq/年になってしまうが、上で述べたように、3ヶ月すると環境中のI-131量は1/1000近くまで低下する事が期待される。つまり、最初の数ヶ月分の摂取だけ考えればいい。このため、110319(土)発令の水質基準を守っても、原発がこのまま推移さえしてくれれば、乳児や子供もトータルではで上で考察した分量の10,000 Bq/年以下しか摂取しないものと思われる。



セシウム137、134 (Cs-137、Cs-134)

半減期 30.1年(Cs-137)、2.1年(Cs-134)
生物学的半減期 110日
消化管吸収率 100%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-04-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

セシウム137および134の大人の経口摂取量、合計で10,000 Bq/年程度までなら大きな問題にはならないと考えられる。
WHOの水道水ガイダンスレベルは7300 Bq/年。WHOの基準値は相当安全に設定されていると思われる。
110319(土)発令の水質基準値は150,000 Bq/年程度を上限にしている。長期間にわたらなければ問題ないと思われるが・・はっきりはわからない。

詳細

アルカリ金属(リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs))は、通常環境では、1価のプラスイオンとして存在する。

Kの同位体のうち、主要な二つのK-39, K-41は安定だが、K-40(0.012%)は放射性である(半減期1.250×10^9年)。
K-40はβ崩壊により安定なCa-40に変化する。
Kは大人の体に約200 g含まれている。200 gのKは約6500 Bqの放射能を持つ(主に〜1 MeVのβ線を放出)。

Cs-137、Cs-134もK-40と同様、崩壊時にγ線β線を放出する。

ナトリウムイオン(Na+)とカリウムイオン(K+)は、細胞内外でまったく違った濃度になっている。これは、細胞膜上のナトリウムポンプの働きにより、Na+が細胞から運び出され、K+が細胞内に運び入れられているからである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Na%2B/K%2B-ATP%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC
セシウムイオン(Cs+)はK+よりも大きなイオン半径を持ち、生体内では小さなイオン半径を持つNa+ではなく、K+に似た分布をを示す。
http://en.wikipedia.org/wiki/Caesium
よって、K-40とCs-137の持つ放射能の人体に対する作用は、かなり近いと考えられる。
大人の体内のK-40の放射能が6500 Bqであること、および、セシウムの消化管吸収率が100%であることを考えると、同程度の放射能をもつCs-137およびCs-134を経口摂取することは大きな問題ではないと考えられる。
WHOのガイダンスレベルは7300 Bq/年ともほぼ一致。
よって、大人であれば、1年あたり合計で10,000 Bq程度のCs-137およびCs-134を経口摂取することは健康にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。

110319(土)発令の水質基準値によると、放射性セシウム(飲料水)200 Bq/kgとなっている。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015k18.pdf
1日2kgの水を飲むとすると、1年で146,000 Bq。
実効線量〜5 mSv/年。
生物学的半減期が110日とそれほど長くないので、あまり神経質になる必要はないとは思うが・・・。



ストロンチウム90 (Sr-90)

半減期 30.1年
生物学的半減期
消化管吸収率 30%(大人)、60%(乳児)

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-01-04-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010401/01.gif

まとめ

WHOの水道水のガイダンスレベルは7300 Bq/年。半減期が長く、蓄積性が高いため、水道水に関しては、ガイダンスレベルを守ることが望ましいと思う。

詳細

ストロンチウム(Sr)はアルカリ土類金属で、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)の仲間。通常環境では、2価のプラスイオンとして存在する。
Sr-90は110331(木)現在までのところ測定が行われていない。これは、Sr-90が崩壊の際に弱いβ線のみを放出するため、検出が難しいことによる。ただし、東京のチリ中に存在することは、東大の早野氏によって示されている。
http://plixi.com/p/86903798

WHOのガイダンスレベル(通常時の基準)は7300 Bq/年。つまり、Cs-137と同じ。
現在は、基準値は設定されていないが、今後検出れた場合、原子力安全委員会が水質基準値を設けると思われる。
Sr-90はCaに似ているため、骨に畜積されやすいとされている。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-03-03-04

半減期はCs-137とほぼ同じ。蓄積性が高い分、高濃度の濃度のSr-90が検出された場合は、強い注意を払う必要がある。



プルトニウム

核種 半減期 廃燃料中の割合
Pu-238 87.7年 2%
Pu-239 24110年 59%
Pu-240 6563年 24%
Pu-241 14.35年 11% β崩壊によりAm-241に
Pu-242 373300年 4%
Am-241 433年   Pu-241のβ崩壊により生成
生物学的半減期 100年程度
消化管吸収率 0.001%

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09040410/03.gif
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-04-04-10

まとめ

廃燃料ペレット中での存在形態である二酸化物(PuO2)の比重は11.5 (g/cm^3)と非常に大きく、融点も2,400℃と高い。よって、原発の極近傍以外には拡散しない可能性が高いと思われる。実際、原発敷地内の土壌から検出された放射能濃度も、通常の土壌の放射能濃度と大差なかった。
プルトニウムは経口摂取に関しては、消化管吸収率が非常に低く、水への溶解度も非常に低いのでほとんど気にする必要がない。吸入摂取の毒性は高いが、上で述べたようにほとんど拡散しないと思われるので、避難区域外においては、やはり気にする必要はないだろう。

詳細

プルトニウム同位体はPu-241を除き、すべて約5 MeVのα粒子を放出して崩壊する。Pu-241はβ崩壊でAm-241になり、Am-241はエネルギー約5 MeVのα崩壊をする。結局すべてのプルトニウム同位体が5 MeVのα粒子を放出する。
廃燃料ペレット中での存在形態である二酸化物(PuO2)の比重は11.5 (g/cm^3)と非常に大きく(鉄の約1.5倍)、その融点も2,400℃と高い。また、水への溶解度も非常に低い。よって、激しい爆発事故などが起こらない限りは、非常に飛散しにくいものと思われる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Plutonium%28IV%29_oxide

プルトニウムの経口摂取における吸収率は0.001%と非常に低いため、経口摂取に関してはあまり大きな問題にはならない。一方で、吸入摂取時に関しては他の元素と同程度の摂取率かつ高い毒性を持つので、微粒子が大量に拡散するような環境では、吸い込まないよう厳重な注意を要する(しかし、上で述べたように、微粒子はあまり拡散しないだろう)。
プルトニウム半減期および生物学的半減期が長く、高エネルギーのα崩壊をするため、吸入時の預託実効線量換算係数(Sv/Bq)は他の核種の1000〜10000倍である(経口摂取時は吸収率が低いので〜10倍)。ただし、預託実効線量はあくまで預託期間の50年(子供は70年)の積算値である。I-131やCs-137に比べて、預託期間中の分子数の減少が少ないため、全預託期間への線量の平準化率が大きくなる。つまり、同じ放射能あたりで見たとき、プロトニウムは預託実効線量は大きいが、1年あたりの実効線量では、他の核種との差が、数分の1から数十分の1だけ縮まってしまう。
さらに、半減期が長いことから、単位個数(例えばモル)あたりの放射能は小さい。半減期が30年のCs-137やSr-90に比べても単位個数あたりの放射能は〜1/60(Puの同位対比は上の表の廃燃料棒中の比とする)。原子番号も非常に大きいため、単位重さあたりの放射能はさらに小さくなる(Cs-137やSr90に対して〜1/100)。つまり、プルトニウムは、単位放射能あたりでの毒性は高いが、単位個数や単位重さあたりの毒性はさほど高くない放射性元素である。
110329(火)に福島第一原発の敷地内の土壌(110321(月)、110322(火)にサンプリング)からごくわずなPuのα線放射能が検出された。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11032806-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110328m.pdf


土壌1kgあたりのPuのα線放射能 -福島第一原発の敷地内の土壌(110321(月)、110322(火)にサンプリング)

核種 Bq/kg
Pu-238 0.1-0.5
Pu-239,240 0.2-1.2

この値は、全国の大地のプルトニウム濃度(大気中核実験で降り積もった分)と大きくは違わない(*)。つまり、ごくごく微少量放出されたということ。東京はもとより、福島でも数 km以上離れた地域であれば、経口摂取、吸入摂取どちらにおいてもプルトニウムが問題になることはないと思われる。

(*)Pu-238の他の核種に対する割合が高いことから、原発実験ではなく、核燃料由来である可能性が高いと判定された。


プルトニウムに関する高校生向けの情報(内容は非常に充実)
http://www.atomin.go.jp/atomin/high_sch/reference/atomic/plutonium_science/index.html
大気中核実験の時代(1970年ころまで)はPuの降下量が現在の1000-10000倍
http://www.mri-jma.go.jp/Dep/ge/2007Artifi_Radio_report/Chapter5.htm
http://plixi.com/p/87687218
http://plixi.com/p/87687577


(補足)
次の36ページに、経口摂取の際の様々な核種の実効線量への換算係数が載っている。とくに、乳児、幼児、少年、青年、成人ごとの係数が載っているのが特徴。(Cs-137の成人の値は10倍違っているので注意。)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

放射性元素の特性表

原子力発電所で生成される放射性元素から放出される放射粒子は、1 MeV(= 1.6 x 10^-13 J)程度のエネルギーを持つことが多い。
以下に、福島第一原発事故で問題になり得る放射性元素の放射粒子とそのエネルギーを示す。

放射性元素の特性表

元素 同位体番号 半減期 緩和時間 緩和時間(s) 放射粒子 放射線 エネルギー(MeV) 放出率(1) 使用済み核燃料中の重量比(2) 経口摂取-実効線量係数(Sv/Bq)(3) 吸入摂取-実効線量係数(Sv/Bq)(3) 空気中濃度限度(Bq/cm^3) 排気中濃度限度(Bq/cm^3) コメント
I 131 8.04日 12日 1.0.E+06 光子 γ 0.364 0.81   2.2E-08 7.4E-09 1.0E-03 5.0E-06 濃度限度は、ヨウ素の蒸気の場合。
I 131 8.04日 12日 1.0.E+06 光子 γ 0.637 0.072   2.2E-08 7.4E-09 1.0E-03 5.0E-06 濃度限度は、ヨウ素の蒸気の場合。
I 131 8.04日 12日 1.0.E+06 電子 β 0.284 0.061   2.2E-08 7.4E-09 1.0E-03 5.0E-06 濃度限度は、ヨウ素の蒸気の場合。
I 131 8.04日 12日 1.0.E+06 電子 β 0.365 0.82   2.2E-08 7.4E-09 1.0E-03 5.0E-06  
                             
Cs 137 30.0年 43年 1.4.E+09 光子 γ 0.662 0.85   1.3E-08 3.9E-08 3.0E-03 3.0E-05 Ba-137へ変化した後放出
Cs 137 30.0年 43年 1.4.E+09 電子 β 0.512 0.94   1.3E-08 3.9E-08 3.0E-03 3.0E-05  
Cs 137 30.0年 43年 1.4.E+09 電子 β 1.17 0.06   1.3E-08 3.9E-08 3.0E-03 3.0E-05  
                             
Sr 90 29.1年 42年 1.3.E+09 電子 β 0.546 1   2.8E-08 1.6E-07 7.0E-04 5.0E-06  
                             
Pu 238 87.7年 127年 4.0.E+09 ヘリウム原子核 α 5.5 0.709 0.018 2.3E-07 1.1E-04      
Pu 238 87.7年 127年 4.0.E+09 ヘリウム原子核 α 5.46 0.29 0.018 2.3E-07 1.1E-04      
                             
Pu 239 24110年 34783年 1.1.E+12 ヘリウム原子核 α 5.16 0.733 0.593 2.5E-07 1.2E-04 7.0E-07 3.0E-09 濃度限度は、不溶性の酸化物以外の化合物の場合。
Pu 239 24110年 34783年 1.1.E+12 ヘリウム原子核 α 5.14 0.151 0.593 2.5E-07 1.2E-04 7.0E-07 3.0E-09 濃度限度は、不溶性の酸化物以外の化合物の場合。
Pu 239 24110年 34783年 1.1.E+12 ヘリウム原子核 α 5.11 0.115 0.593 2.5E-07 1.2E-04 7.0E-07 3.0E-09 濃度限度は、不溶性の酸化物以外の化合物の場合。
                             
Pu 240 6563年 9468年 3.0.E+11 ヘリウム原子核 α 5.17 0.728 0.24          
Pu 240 6563年 9468年 3.0.E+11 ヘリウム原子核 α 5.12 0.271 0.24          
                             
Pu 241 14.35年 21年 6.5.E+08 電子 β 0.02 1 0.111         崩壊後はAm-241が生成
                             
Pu 242 373300年 538558年 1.7.E+13 ヘリウム原子核 α 5.12 0.271 0.038          
Pu 242 373300年 538558年 1.7.E+13 ヘリウム原子核 α 5.12 0.271 0.038          
                             
Am 241 433年 625年 2.0.E+10 ヘリウム原子核 α 5.49 0.845 0.111 2.0E-07 9.6E-05     Pu-241のβ崩壊によって生成
Am 241 433年 625年 2.0.E+10 ヘリウム原子核 α 5.44 0.13 0.111 2.0E-07 9.6E-05     Pu-241のβ崩壊によって生成
                  同位体存在比
K 40 1.277E9年 1842321567年 5.8.E+16 光子 γ 1.461 0.11 0.0117 6.2E-9 2.1E-9     30.4Bq/g (K) Kは人体には200 g ≒ 6500 Bq/人
K 40 1.277E9年 1842321567年 5.8.E+16 電子 β 1.311 0.893 0.0117 6.2E-9 2.1E-9     30.4Bq/g (K) Kは人体には200 g ≒ 6500 Bq/人
K 40 1.277E9年 1842321567年 5.8.E+16 電子 β 0.044 0.107 0.0117 6.2E-9 2.1E-9     30.4Bq/g (K) Kは人体には200 g ≒ 6500 Bq/人


*E±xは10^±xを表す。

(1)放出率は主に、以下のサイトを参考にした。http://ie.lbl.gov/education/parent/I_iso.htm
(2)使用済み核燃料中の重量比は原子力試料情報室のHPより。2年間運転した電気出力100万kWの軽水炉の中にあるプルトニウム1kgに対する値。http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/23.html。ATOMICAの図表も似たような値。http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/04/04090101/03.gif
(3)実効線量係数は緊急被ばく医療ポケットブックの≪内部被ばくに関する線量換算係数≫より。http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html

放射性元素の崩壊の速度論

放射性元素Aから元素Bへの崩壊(変換)反応は、一分子反応の反応速度論式で非常によく記述できることが知られている(核崩壊反応は一分子反応のお手本とも言われている)。
A → B (反応速度定数k(1/s))

この反応に伴って、粒子(光子や電子、原子、中性子)が放出される(放射粒子)。これら放出された粒子の流れは放射線と呼ばれる。放射粒子の種類やそのエネルギーは、元素ごとに決まっている(1回の崩壊で放出される放射粒子は1種類とは限らない)。逆に、放射粒子の種類やエネルギーを測定することで、放射性元素の種類が特定できる。

上の反応速度論式は、「時刻tにおける、反応速度v(t) (=dN(t)/dt)は下の微分方程式で表される」と読み替えてもよい。
v(t) = dN(t)/dt = k x N(t)
ここで、N(t)は元素Aの時刻tにおける個数。

これを解くと、
N(t) = N(0) x exp(-kt)
が得られる。

τ = 1/k
とすると、(τ: タウと読む。反応緩和時間。単位は秒(s))
Aの個数は、τ秒後に1/eになる。
Aの個数が半分になるまでの時間τ(1/2)(半減期)とτの関係は下の通り。
τ = τ(1/2) / ln2 ≒ 1.5 x τ(1/2) (小数点第2位を切り上げ)

1個の放射性元素の崩壊過程の確率密度分布(*)p(t)は以下の通り。(*確率密度分布p(t)を時間で定積分したものはイベントが起こる確率。)
p(t) = k x exp(-kt)

(0から)t秒までの間にイベントが起こる確率P(t)は、
P(t) = ∫(0, ∞) ( p(t)) dt = ∫(0,∞)( k x exp(-kt) ) dt = [- exp(-kt)](0, t) = 1 - exp (-kt)
ここで、t << 1/k = τの場合
exp (-kt) ≒ 1 - kt = 1 - τ/t
より
P(t) ≒ t/τ (t << τ のとき)

1個の放射性元素の平均寿命
= ∫(0, ∞) (t x p(t))dt = ∫(0,∞) (t x k x exp(-kt))dt = [-1/k x exp(-kt) - t x exp(-kt)](0, ∞) = 1/k = τ
つまり、反応緩和時間τは平均寿命と等しい。τを平均寿命と呼ぶこともある。

時刻t秒における放射粒子rの放射能R(t)を以下のように定義する。(R(t)の単位はベクレル (Bq (= 1/s))。
R(t) = N(t) x p(t)
N(t) = N(0) x k x exp(-kt)
より
R(t) = N(0) x k x exp(-kt) = k x N(t) (= v(t))

t秒から(t+Δt)秒までの間の、放射性元素Aに由来する放射粒子rの数C(t, Δt) を測定したとする。(崩壊反応で放射粒子rを必ず1個放出し、r粒子をすべて測定できているとする。)
C(t, Δt) = N(t) - N(t+Δt) = N(0) x exp(-kt) - N(0) x exp(-k(t+Δt))) = N(0) x (exp(-kt) - exp(-k(t+Δt))) = N(0) x (exp(-kt) - exp(-kt) x exp(-kΔt)) = N(0) x exp(-kt) x (1 - exp(-kΔt)) = N(t) x (1 - exp(-kΔt))
Δt << τの場合
exp(-kΔt) = ≒ 1 - kΔt
より
C(t, Δt) = N(t) x (1 - exp(-kΔt)) ≒ kΔt xN(t) = R(t) x Δt (Δt << τの場合)

以上より、Δt << τ 、つまり測定時間Δtが平均寿命τより十分に短い場合には以下のように、C(t, Δt) からR(t)を(かなりの精度で)算出できる。
R(t) ≒ C(t, Δt) /Δt

下に反応開始後の時刻t(τで規格化)における元素Aの崩壊確率(反応進行度)および残存確率を示す。

表 放射性元素(緩和時間τ)の崩壊率と残存率の時間依存性

t/τ 崩壊確率 残存確率
0 0% 100%
0.001 0.1% 99.9%
0.01 1% 99%
0.05 5% 95%
0.1 10% 90%
0.2 18% 82%
0.3 26% 74%
0.4 33% 67%
0.5 39% 61%
0.6 45% 55%
0.7 50% 50%
0.8 55% 45%
0.9 59% 41%
1 63% 37%
2 86% 14%
3 95% 5%
4 98% 2%
5 99.3% 0.7%
6 99.8% 0.2%
7 99.9% 0.09%


*7τ後には、最初の濃度の0.1%以下の濃度になる。
**t < 0.1τでは、τ/t 〜崩壊確率。

福島第一原発事故に関するチェーンメールについて

この度、東北大震災に伴う福島第一原発事故に関して、私の家族や友人への安全を思い各位に送付したメールが、不覚にもチェーンメールの根拠として拡散してしまい、チェーンメールを読まれた方には大変なご不安を与えていることが判明致しました。

私の不注意です。申し訳ありませんでした。

メール内容は、あくまでも私の家族や友人に今回の原発事故に関する安全注意の隆起をうながすためであり、必ずしも十分な裏付けを持っていない対策が記載されております。
それがチェーンメールの内容では、私のメールがあたかも確証のように取り扱われていること、また、氏名及び所属が記載されていたことには、私自身も驚きを隠せませんでしたし、非常に腹立たしい限りです。

チェーンメールをごらんになった方は、参考にされないよう、お願い申し上げます。尚、今回の悪意あるチェーンメールの送付に関しては私は一切無関係です。

私の専門は生物物理学であり、原子力発電や放射性物質の毒性に関する知識はほとんどありませんでした。しかし、福島第一原発の事故をみて、東京近郊に住む家族、友人へのアドバイスができればと、原子力発電のしくみ、および放射性物質の毒性を勉強し始めました。110315(火)の時点では、まだわからないことばかりで、他人にアドバイスできるような状況ではありませんでした。しかし、110315(火)早朝の官房長官会見を聞いて、これは重大な事故が発生しているようだ、と感じたため、十分な裏付けもないまま「原発情報」を送ってしまいました。

110318(金)現在、あのときの考えは誤りであったと考えています。(放射性物質のリスクの見積が過剰でした。)

誤った情報を拡散させてしまったことを、深くお詫びします。
誠に、申し訳ございませんでした。


*参考までに、110318(金)現在、私が考えている、東京近郊に住んでいる方の福島第一原発事故への対応策を載せておきます。

現時点

福島第一原発の状態を定期的にチェックする
・長時間の外出の前には、外出先の放射線量をモニタリングポストでチェックする
・雨に積極的には濡れないようにする(なるべく傘をさすようにする)

重大事故(格納容器の激しい損傷等)が起こった場合

・重要性の低い外出は控える
・外出時にはモニタリングポストのチェックを必ず行う
・雨には極力濡れないようにする



*110315(火)に友人、家族に送ったメール「原発情報」、および、110317(木)に友人に送ったメール「すべての「原発情報」の取り消し」(一部改変)を下に載せておきます。

110315(火)朝8時ごろ、友人および家族に送ったメール「原発情報」

みなさま

岡本です。

情報をチェックされてる方も多いかもしれませんが、福島第一原発2号機の状態がか
なり悪化しています。
先ほど(06:45)、官房長官会見でサープレッションプールに穴が空いた、との情報が
公開されました。
簡単に言うと、放射性物質を閉じ込める部屋(格納容器)の一部に穴が空いている、
ということです。
また、燃料棒も水から完全に出てしまっている可能性が高いです。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4530.html
会見は質問1つで打ち切られたため、詳細は不明ですが、かなり問題のある状態であ
る可能性があります。
現在は原子炉周辺でもそれほど高い放射線は検出されていませんが、今後、高濃度の
放射性物質が大気中に放出される可能性があります。
じきに、もう一度会見が開かれ、きちんとした情報が開示されるものと思われます。
それを見極めるまでは、出勤を遅らせることをおすすめします。

また、もし、高濃度の放射性物質(数10Sv/h以上の放射線量)が放出された場合、半
日程度で健康に被害を及ぼすような放射性物質が東京付近まで届く可能性があります。
そうなると、高濃度放射性物質の放出が止まるまでは自宅から出ると無視できない程
度の被爆するという状況が続く可能性があります。
つまり、(最低)1週間程度家から一歩も出るべきでない、という状況になる可能性
があるということです。

現在するべきことは、1-2週間程度の食糧と水を確保する、ということです。
水は、きれいにした浴槽にはっておけば、2週間程度は飲み水に困らないと思います。
(沸かせば飲めます.)
食料は、可能であれば今のうちに買い足すことをおすすめします。


110317(木)午前、友人に送ったメール「すべての「原発情報」の取り消し」

みなさま

今まで送ったすべての原発情報を取り消してください。

原発の様子があまりに急激に悪化しており、一刻を争うように感じたので、かなりいい加減な考察で多くのメール送ってしまいました。
もっと冷静になります。
チェーンメール的との指摘も受けました。
その通りと思います。
放射性物質の毒性に対する過剰反応という面もあるのだと思います。
今後は、放射能毒性に関してもっときちんと勉強します。

原発関連に関しては、まったく冷静な思考をできていないと思います。
多くのメールが、典型的な不安をあおる表現になっていたと思います。
よって、今まで送った情報はすべて取り消します。
そして、情報を送るのは、今後、完全に自粛したいと思います。
みなさん、ぜひ、行政機関から指示される対処法に従って適切に行動してください。

最後に、このような状態でがんばっている方々に対して、侮辱するようなメールを数多く送ってしまったことをお詫びします。
みなさん、いろいろと混乱した情報を送ってしまい、本当に申し訳なかったです。